がん免疫療法コラム

前立腺がんの主な治療法とは? 標準治療や免疫療法について解説

がんは種類によってさまざまな治療法があります。がんの代表的な治療法は、手術療法・放射線療法・化学療法ですが、前立腺がんの主な治療法にはどのようなものがあるのでしょうか。

今回は前立腺がんの治療について、標準治療や免疫療法について解説します。前立腺がんと診断された患者さんや患者さんの親族の方は、ぜひ参考にご覧ください。

前立腺がんとは?


まずは前立腺がんとはどのような病気か、概要を紹介します。前立腺がんとは、主に50歳以上の男性に発症しやすい疾患です。

(参考:がん情報サービス 前立腺 2.罹患(新たに診断されること)>2)どの年齢層で多いか)

2019年には94,748例の診断があり、人口10万人あたりの罹患率は154.3例です。2020年の前立腺がんの死亡数は12,759人で、人口あたりの死亡率は21.3 人(人口10万対)です。

(参考:がん情報サービス 前立腺

多くのがんの中でも、男性における罹患が最も高いがんとして知られています。

(参考:がん情報サービス 最新がん統計

ただし前立腺がんの中には進行がゆっくりで、症状もなく治療を受けなくても余命に影響しないものもあります。

前立腺がんの症状


続いては、前立腺がんの症状を見ていきましょう。

前立腺がんは初期段階では、自覚症状がないケースが多い疾患です。ただし人によっては尿が出にくい、排尿の回数が多いなどの症状が出ることもあります。

前立腺がんが進行すると、排尿の症状に加えて、血尿、腰痛(骨への転移によるもの)などが生じることがあります。体に異変を感じたら、早めに医療機関を受診しましょう。

前立腺がんのステージ


次に、前立腺がんのステージを紹介します。前立腺がんのステージ(病期)は、主に以下の4つのステージに分類されます。

Ⅰ期(ステージ1):触診や画像検査で異常が見つからないもの、または異常が見つかるが前立腺内の左右どちらか2分の1以内にとどまっている

Ⅱ期(ステージ2):触診や画像診断で見つかった異常は前立腺内にとどまっており、左右どちらか2分の1を超えている、または左右どちらにも広がっている

Ⅲ期(ステージ3):がんの腫瘍が前立腺被膜を超えて広がっている

Ⅳ期(ステージ4):がんが隣接する臓器に広がり、他の臓器やリンパ節、骨への転移がある

TNM分類については、以下の通りです。

T:がんが前立腺の中にとどまっているか、周辺の組織・臓器にまで及んでいるか。

N:前立腺からのリンパ液が流れている近くのリンパ節(所属リンパ節)へ転移しているか。

M:離れた臓器への転移(遠隔転移)があるか。

TNM分類に基づいてステージが判断されます。また、T、N、Mはさらに数種類に分けられます。

以下の表をご参照ください。

T1 直腸診で明らかにならず、偶然に発見されたがん
T1a 前立腺肥大症などの手術で切り取った組織の5%以下に発見されたがん
T1b 前立腺肥大症などの手術で切り取った組織の5%を超えて発見されたがん
T1c PSAの上昇などのため、針生検によって発見されたがん
T2 直腸診で異常がみられ、前立腺内にとどまるがん
T2a 左右どちらかの1/2までにとどまるがん
T2b 左右どちらかだけ1/2を超えるがん
T2c 左右の両方に及ぶがん
T3 前立腺をおおう膜(被膜)を越えて広がったがん
T3a 被膜の外に広がっているがん(片方または左右両方、顕微鏡的な膀胱への浸潤)
T3b 精のうまで及んだがん
T4 前立腺に隣接する組織(膀胱、直腸、骨盤壁など)に及んだがん
N0 所属リンパ節への転移はない
N1 所属リンパ節への転移がある
M0 遠隔転移はない
M1 遠隔転移がある

前立腺がんの標準治療


次に、前立腺がんの標準治療について解説します。

前立腺がんの標準治療について次章以降で詳しく見ていきましょう。基本的には前立腺がんのステージや状態、治療を受ける方の希望や体の状態、年齢などを含めて、医師と相談して決めていきます。

ですが、場合によってはいくつかの治療法を組み合わせることもあります。

前立腺がんの治療には生殖能力への影響を含む、さまざまな側面を考慮する必要がありますので、今後子どもをもつことを希望している場合は、その旨を治療の検討段階で医師に伝えることが重要です。

監視療法

前立腺がんの標準治療1つ目は、監視療法です。

監視療法とは、前立腺がんが検査などで見つかったとしても、治療を開始しなくても余命に影響がないと判断される場合に選択されるものです。数カ月あるいは年単位で定期的に検査を受け、病状が悪化する兆しがあった時点で、治療の開始を検討します。経過観察をしていきながら過剰な治療は行いません。

フォーカルセラピー

前立腺がんの標準治療2つ目は、フォーカルセラピーです。

フォーカルセラピーとは高密度焦点超音波療法(HIFU)、凍結療法、小線源療法などを用いることがある治療法です。フォーカルセラピーにはさまざまな治療が含まれるため、評価が難しく十分な根拠がありません。医師とよく相談して治療方法を検討することが重要です。

手術療法

前立腺がんの標準治療3つ目は、手術療法です。

手術療法は、がんを切除によって取り除く治療法です。がんの転移や浸潤がない場合に検討される治療法で、がんの初期に根治目的として行われることが多いです。手術ができない場合や、手術による侵襲が大きい場合には、この他の治療法が適応されます。

手術療法は、主にステージ1〜2期の前立腺がんで選択されることが多くあります。いくつかの手術方法があるので、それぞれの概要や特徴を紹介します。

開腹手術(恥骨後式前立腺全摘除術) 開腹手術とは、全身麻酔と硬膜外麻酔を行いながら、下腹部をまっすぐに切開して治療を行います。傷口は大きいので、術後の回復にも時間を要します。

 

腹腔鏡手術(腹腔鏡下前立腺全摘除術) 腹腔鏡手術とは、腹部に小さな穴をあけて行う低侵襲手術です。穴には内視鏡や器具を挿入するための筒を挿入し、お腹を炭酸ガスで膨らませながら治療を行います。

内視鏡によって腹腔内をモニターに映し出しながら手術を進めます。体への負担が少なく、合併症からの回復が早いといわれています。

ロボット手術(ロボット支援前立腺全摘除術) ロボット手術は、分類としては内視鏡手術である、低侵襲手術です。腹部に小さな穴をあけてロボットにより繊細で精密な手術を行います。体への負担が少なく、合併症からの回復が早いといわれています。

手術療法の主な合併症

手術療法の主な合併症には、以下のものがあります。

尿失禁 手術療法の主な合併症として、尿失禁があります。前立腺全摘除術や放射線療法の際に、尿道括約筋などの前立腺の周囲の神経や筋肉が傷つくことがあります。尿道の締まりが悪くなり排尿コントロール不良に陥り、咳せきをしたときなどに尿が漏れることがあります。予防策として、できる限り手術中に神経や尿道括約筋の温存を行います。ですが、完全に防ぐことは難しいのが現状です。多くの場合半年ほどで生活に支障ない程度に回復すると言われていますが、完治は難しい傾向にあります。
性機能障害 手術療法の主な合併症として、性機能障害が生じるケースもあります。手術直後はほぼ確実に勃起障害が起こると言われています。神経温存の程度や年齢、術前の勃起能などで、勃起障害の回復過程は異なります。ただし完全に戻ることは難しいのが一般的です。神経を温存した手術後の勃起障害には飲み薬での治療も効果的です。

放射線療法

前立腺がんの標準治療4つ目は、放射線療法です。

放射線療法は、放射線をがんに放射することで、細胞の遺伝子に損傷を与える治療法です。最近では、正常細胞へのダメージが少ない放射線療法が研究されています。手術が困難な場合の治療や、手術後の補助的な治療として選択されることも多くあります。前立腺がんにおける放射線療法は、手術療法に比べて身体的な負担が少なく、年齢が高い方でも受けやすい治療法です。主にステージ1〜2期の前立腺がんで選択されることが多く、ステージ3の前立腺がんでは、後述する内分泌療法と組み合わせて治療が行われるケースが多い傾向にあります。

前立腺がんにおける放射線療法には、主に以下2つの照射方法があります。

  • 体外から治療を行う外部照射療法
  • 前立腺組織内に放射線源を挿入する織内照射療法

放射線療法の主な副作用

放射線療法の副作用のリスクについて紹介します。前立腺がんにおける放射線療法で起こり得る主な副作用は、以下の通りです。

皮膚炎 放射線療法の主な副作用に、皮膚炎があります。皮膚や粘膜は放射線の影響を受けやすいため、治療が始まって2週間くらいすると放射線をあてた部分が日焼けしたように炎症を起こして赤くなることがあります。その後は黒ずみが生じ、皮膚が入れ替わってもとに戻っていきます。ですが、治癒する過程で皮膚を強くこすったりすると、ただれたり潰瘍ができる可能性があります。

対処法として、皮膚炎を起こした部分にはできるだけ刺激を与えないようにしましょう。かゆみや痛みを伴うときは、冷たいタオルを軽く当てますそれでも症状がひどいときには、かかりつけ医に相談してください。ステロイド軟膏やかゆみ止めを処方してもらえます。

肺臓炎 放射線療法の主な副作用に、肺臓炎があります。照射する範囲が広い場合に、肺臓炎が生じる可能性があります。肺臓炎では、咳や熱、息切れなどの症状が生じ、治療の半ばくらいからみられることがあります。高熱やひどい息切れなどがある場合は、重症化するおそれがありますので、医師に相談しましょう。
脊髄炎 放射線療法の主な副作用に、脊髄炎があります。脊髄炎は、正常な細胞が耐えられる放射線量である50Gy程度以上の治療で生じる副作用です。炎症により、しびれや麻痺などがみられます。

内分泌療法(ホルモン療法)

前立腺がんの標準治療5つ目は、内分泌療法(ホルモン療法)です。

前立腺がんにおける内分泌療法(ホルモン療法)は、薬物療法の一種です。内分泌療法は手術療法や放射線療法が難しい場合や、放射線療法を受ける前後、他の臓器にがんが転移した場合などに選択されることが多くあります。

内分泌療法のみでは、がんを根治することは難しいとされており、長く内分泌療法の治療を続けていると反応が弱くなり、落ち着いていた病状がぶり返す可能性があります。長期間の内分泌療法によって病状がぶり返したがんのことを、去勢抵抗性前立腺がんと呼びます。

内分泌療法(ホルモン療法)の主な副作用

内分泌療法(ホルモン療法)の副作用のリスクについて紹介します。

前立腺がんにおける内分泌療法(ホルモン療法)で起こり得る主な副作用は、以下の通りです。

ホットフラッシュ ルモン療法において最も多い副作用として、ホットフラッシュがあります。のぼせ、ほてり、急な発汗が生じます。
性機能障害 通常1年以内に、勃起障害や性欲の低下が起こります。ホルモン療法を休止することにより改善が期待できます。
乳房の症状 治療によってアンドロゲンが低下し、相対的に女性ホルモンが多くなります。女性化乳房と言い、乳房が大きくなったり、乳頭に痛みを感じたりすることもあります。対処法として、乳腺への予防放射線照射が有効と報告されています。
骨に対する影響 最初の1年で骨のミネラルが3~5%減少し、その後も緩やかにミネラルは減少します。骨密度が低下し、骨折のリスクが増加しますが、症状は一過性です。副作用が強すぎるときには、薬の種類を変更したり、治療を中止したりするケースもあります。

化学療法

前立腺がんの標準治療6つ目は、化学療法です。

化学療法(抗がん剤による治療)は、薬物療法の一種です。前立腺がんにおける化学療法は、がんの根治を目指すものではありません。

抗がん剤を使いながら、がんの増殖や痛みを抑えることを目指す治療法です。主に転移がある進行がんで、内分泌療法(ホルモン療法)の効果が弱くなってきた場合に選択されるケースが多くあります。

化学療法の主な副作用

前立腺がんにおける化学療法の副作用のリスクについて紹介します。

起こり得る主な副作用は以下の通りです。

アレルギー反応 点滴している最中にアレルギー反応がおこってショック症状に陥ることがあります。
骨髄抑制 骨髄抑制により白血球の一種である好中球が減少すると感染症にかかりやすくなります。発熱などがみられたら、感染症を疑わなければなりません。
間質性肺炎 肺の間質を中心に炎症が生じる可能性があります。

この他にも、発疹・吐き気・嘔吐や治療後数週間から数ヶ月後には、むくみ・しびれ・倦怠感・爪の異常が生じる可能性があります。

標準治療の他にも検討できる免疫療法


標準治療に加えて、免疫療法も効果的な治療選択肢として検討されます。

免疫療法とは、治療を受ける方の体に元々備わっている免疫細胞を利用して、がんを治療する方法で、全てのステージで治療の検討ができます。免疫療法は大きく以下の2つに分けられます。

・免疫チェックポイント阻害薬による治療

・免疫細胞療法

次章以降で各治療法の詳細について解説します。

免疫チェックポイント阻害薬による治療

標準治療の他にも検討できる免疫療法の1つ目は、免疫チェックポイント阻害薬による治療です。

免疫チェックポイント阻害薬は、T細胞やがん細胞のアンテナに作用し、免疫にブレーキがかかることを防ぐ薬です。さまざまな種類があり、それぞれ対応するがんが異なります。

ただし前立腺がんにおいて、がんの腫瘍内で癌細胞を攻撃するT細胞などの免疫細胞が極端に少ないため、免疫チェックポイント阻害薬による治療は全体のごく少数にしか適用されていません。

現在、超音波と免疫チェックポイント阻害剤の併用など、免疫チェックポイント阻害薬による治療の効果を高めようとさまざまな研究開発が進められています。

免疫チェックポイント阻害薬の主な副作用

免疫チェックポイント阻害薬の副作用のリスクについて紹介します。免疫チェックポイント阻害薬の使用で起こり得る、主な副作用を見ていきましょう。

  • 疲労
  • そう痒症
  • 発疹
  • 悪心
  • 食欲減退

これらの副作用の出現には、個人差があります。

免疫細胞療法

標準治療の他にも検討できる免疫療法の2つ目は、免疫細胞療法です。

免疫細胞療法とは、免疫(免疫細胞が攻撃する力)を強める効果がある治療方法です。重篤な副作用は少なく、軽い発熱、発疹などが出る可能性はあります。ホルモン療法などの他の治療法と組み合わせることも可能です。

免疫細胞療法はさらに細かくさまざまな治療法に分けられます。いくつかの免疫細胞療法について次章以降で紹介します。

樹状細胞ワクチン療法

樹状細胞ワクチン療法は、免疫細胞療法の一つです。

樹状細胞ワクチン療法では、樹状細胞のもととなる単球を培養・活性化させることで、樹状細胞が長期間体の中を循環しがん細胞にアプローチします。樹状細胞は、がんの目印を最初に確認しその特徴を免疫細胞であるリンパ球に伝える役割を担っていますので、効果が期待できます。

ただし、樹状細胞ワクチン療法もごくまれに副作用が出現します。一過性の発熱や注射部位の発赤などが見られることがあります。

活性化Tリンパ球療法

活性化Tリンパ球療法は、免疫細胞療法の一つです。

Tリンパ球は、樹状細胞からの指示を受けて、がん細胞を攻撃します。活性化Tリンパ球療法では、Tリンパ球を培養し増殖させ、さらに攻撃力を高めたものを体内に戻す治療法です。

アルファ・ベータT細胞療法

アルファ・ベータT細胞療法は、免疫細胞療法の一つです。

アルファ・ベータT細胞療法では、リンパ球を分離して、T細胞の表面にあるCD3という分子を刺激して、T細胞を活性化させます。インターロイキン2でリンパ球を増殖させ、患者さんの体内に戻すという治療方法で、安全性の高さが特徴です。また、ほぼすべてのがんに適応できます。

ただし、どんな症状にも必ず効果が出るとは限らず、効果には個人差があります。

NK細胞療法

NK細胞療法は、免疫細胞療法の一つです。

NK細胞療法とは、NK細胞ががん細胞を発見すると真っ先に単独で攻撃する能力を利用した治療法です。自身の血液から採取したNK細胞を培養・活性化し、自身の免疫細胞を用いてがん細胞にアプローチします。

また、特殊なNK細胞培養培地を用いることで、効率的に高い細胞殺傷能力を持ったNK細胞の培養が可能です。侵襲の少ない治療法で、再発や転移防止に有効です。

6種複合免疫療法

6種複合免疫療法は、免疫細胞療法の一つです。

6種複合免疫療法は免疫細胞を一度体外へ取り出し、活性化・増殖させて体内へ戻す療法です。がん細胞を発見、認識、攻撃するなどそれぞれ役割を持つ免疫細胞を同時に増殖・活性化することで、より効果的にがん細胞と闘えるように免疫力を高めてくれます。

手術や抗がん剤治療、放射線治療が難しい転移・再発したがんに対しても効果が表れるケースもあります。放射線治療や抗がん剤治療との併用や、温熱療法や漢方、鍼治療、ビタミン療法などとの併用も問題ありません。

6種複合免疫療法

まとめ


今回は前立腺がんの主な治療法について解説しました。

標準治療としては、監視療法やフォーカルセラピー、手術療法、放射線療法、内分泌療法、化学療法などがあります。免疫療法も効果的な治療法で、全てのステージで治療の検討ができます。

福岡同仁クリニックは、がん免疫療法専門の再生医療クリニックとして、6種複合免疫療法を提供しています。これまで多くの患者さんのがん治療を行い、患者さん一人ひとりに合わせた治療法をご提案しています。

6種複合免疫療法についてさらに詳しく知りたい方はこちらよりご確認ください。

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