がん免疫療法コラム

免疫寛容とは? がんとの関係性や免疫力を高める治療法について解説

私達の体は、数多くの細胞により構成されています。

その中で人体にとって重要な細胞の一つが、免疫細胞です。免疫細胞は、体内の異物と戦うための細胞であり、がん治療でも重要な要素を握っています。

今回はがん治療とも関わりのある、「免疫寛容」について紹介します。がんを患っている方やご家族の方は、ぜひ参考にご覧ください。

免疫とは?


まずは免疫とは何かを紹介します。

免疫とは、体内の異物を排除しようとするためのシステムです。このシステムでは、免疫細胞と呼ばれる血液中の白血球などが中心的に働きます。免疫細胞の種類を、表形式で簡単に紹介します。

白血球 単球・マクロファージ
好中球
好酸球
好塩基球
リンパ球 T細胞(Tリンパ球)
B細胞(Bリンパ球)
NK細胞(ナチュラルキラー細胞)
樹状細胞

免疫寛容とは?


次に、免疫寛容の概要を紹介します。

免疫寛容とは体内の異物に対して排除しようとするのではなく、受け入れて共存することを意味します。何らかの原因によって免疫機能に異常が生じると、自分の組織や細胞を異物として見なし排除しようとすることがあります。

その結果、自己免疫疾患を引き起こす事があります。自分の組織や細胞を攻撃しないようにするのが、免疫寛容です。

特に臓器移植後の患者様は拒絶反応を防ぐため、免疫抑制剤を飲み続ける必要がありますが、免疫寛容により薬の服用を止めても拒絶反応が起こらないケースがあります。

免疫細胞の一つである制御性T細胞は、自己免疫疾患を起こさないように免疫寛容を司っています。

がんと免疫寛容の関係性


続いては、がんと免疫寛容の関係性を見ていきましょう。

正常な細胞の遺伝子が傷つくことによって起こる病気が、がんです。がんは異常な細胞であり、目印として抗原を出しています。その目印である抗原に対して免疫反応が起こります。

しかし定常状態で出ているがんの抗原には、免疫寛容が誘導されることがあります。免疫反応を起こせたとしても、抗原を出さないがん細胞が出現する可能性もあります。免疫細胞ががんを排除できずに、がんが進行してしまう恐れがあるため、注意が必要です。

がんと闘うための免疫力を高める免疫療法


では次に、がんと闘うための免疫力を高める免疫療法について見ていきましょう。

免疫細胞の力を強めるための治療法として、免疫療法があります。免疫細胞を増やし活性化させることにより、がんに攻撃を仕掛けていきます。

免疫療法は、手術療法・薬物療法・放射線療法といったがんの3大治療に続く、第4の治療法とされて研究が進んでいます。

免疫療法の特長


免疫療法の主な特長について詳しく見ていきましょう。

次章以降で、いくつかの特徴を紹介します。

副作用が少ない傾向にある

免疫療法の特長1つ目は、副作用が少ない傾向にあるということです。免疫療法は、抗がん剤治療などと比べると副作用が少ない傾向にあります。

しかし免疫療法でも、副作用は起こり得ることは認識しておく必要があります。

特に、免疫チェックポイント阻害薬を使用した治療の場合、免疫細胞のブレーキを外してしまう作用があり、正常な細胞に対する免疫反応が起こる可能性があります。大腸炎や間質性肺炎、状腺機能障害、1型糖尿病などの副作用が起きる恐れがあるため、注意しましょう。

全身に広がったがんや再発したがんにも対応可能

免疫療法の特長の2つ目は、全身に広がったがんや再発したがんにも対応可能ということです。

免疫療法は、体内の免疫細胞に働きかける治療であるため、全身に広がったがんにも有効だと言われています。再発・転移したがんにも対応しており、効果が期待できます。

他のがん治療と併用できる

免疫療法の特長の3つ目は、他のがん治療と併用できることです。

免疫療法は、手術療法や薬物療法、放射線療法などの他のがん治療と併用可能です。併用することで相乗効果を目指せることもあるため、活用が検討されています。

免疫療法の主な種類


続いては、免疫療法の主な種類を紹介します。

免疫療法は現在研究が進められている分野の一つです。免疫療法と一口にいっても、さまざまな種類の治療法があります。いくつかの免疫療法の種類をピックアップして紹介します。

免疫チェックポイント阻害薬による治療

まずは、免疫療法の一つである免疫チェックポイント阻害薬による治療について紹介します。

免疫チェックポイント阻害薬は、免疫ががん細胞を攻撃する力を保つための薬剤です。免疫細胞であるリンパ球の一種、T細胞の表面には、異物の攻撃を防ぐための指令を受け取るアンテナがあります。

ですが、がん細胞にも同様にアンテナがあり、T細胞のアンテナに結合すると異物を攻撃を防ぐ指令を送ります。指令によってT細胞にブレーキがかかってしまうと、がん細胞は排除されなくなってしまいます。

これらの「T細胞にブレーキがかかる仕組み」は、免疫チェックポイントと呼ばれています。免疫チェックポイント阻害薬を活用することで、T細胞やがん細胞のアンテナに作用して、免疫にブレーキがかかるのを防ぐことができるのです。

2020年8月現在の情報では、標準治療として診療ガイドラインに記載されており、保険診療で受けることができる免疫チェックポイント阻害薬は、以下の通りです。

  • ニボルマブ(オプジーボ)
  • ペムブロリズマブ(キイトルーダ)
  • イピリムマブ(ヤーボイ)
  • デュルバルマブ(イミフィンジ)
  • アテゾリズマブ(テセントリク)
  • アベルマブ(バベンチオ)

など。

免疫チェックポイント阻害薬を用いて治療が行えるがんは、以下の通りです。

  • メラノーマ(悪性黒色腫)
  • 非小細胞肺がん
  • 腎細胞がん
  • ホジキンリンパ腫
  • 頭頸部がん
  • 胃がん
  • 悪性胸膜中皮腫

など。

(参考:がん情報サービス 免疫療法 もっと詳しく

免疫チェックポイント阻害薬は、治療法によって単独で使う場合や、免疫チェックポイント阻害薬や細胞障害性抗がん薬と組み合わせて使う場合があります。使用方法については、医師とよく相談しましょう。

樹状細胞ワクチン療法

免疫療法の一つである、樹状細胞ワクチン療法の概要や特徴について紹介します。

樹状細胞ワクチンは、樹状細胞の力を利用してがん細胞を狙って攻撃する免疫細胞であるキラーT細胞を増殖させる治療方法として知られています。キラーT細胞を増殖させることで、体内でがん細胞を狙い撃ちして、効率よく治療を進められるという特徴があります。

エフェクターT細胞療法

免疫療法の一つである、エフェクターT細胞療法の概要や特徴について紹介します。

エフェクターT細胞療法は、がん細胞への攻撃力を強めるために、患者さんご本人のT細胞を体の外に一度取り出す治療法です。取り出したT細胞に、がん細胞の目印を見分けるための遺伝子を組み入れ、増殖させて再び体の中に戻します。増殖させ攻撃力が強まったT細胞を使う治療方法です。

エフェクターT細胞療法の一つに、CAR-T細胞療法があります。CAR-T細胞療法は、がん細胞への攻撃力を強めるために、患者さんご本人のT細胞を体の外に一度取り出す治療法です。取り出したT細胞をがん細胞を攻撃するCAR-T細胞である、キメラ抗原受容体遺伝子に変えて増やし自分の体に戻します。一部の血液がんや、リンパのがんの治療で使うことができる治療法です。

また現在国内で保険診療として受けられるエフェクターT細胞療法は、CAR-T細胞療法のみです。さらに、治療ができる施設は限られています。

CAR-T細胞療法では以下のような治療法が知られています。これらの副作用の出現に注意しましょう。

  • 血圧や酸素濃度の低下
  • 心臓、肺、肝臓などのさまざまな臓器への障害が起こるサイトカイン放出症候群
  • 意識障害

など。

NK細胞療法

免疫療法の一つである、NK細胞療法の概要や特徴について紹介します。

免疫細胞のNK細胞には、がん細胞を直接攻撃し破壊するという能力があります。がん細胞は、免疫の度重なる攻撃を避け増殖した細胞であり、免疫に対して強い抵抗力を持っています。通常の免疫の力では対抗することができませんが、免疫細胞を人為的に増強することで免疫に対抗することが可能になります。

NK細胞療法は、患者さんご本人のNK細胞を体の外に一度取り出す治療法です。NK細胞を高活性化培養して、点滴で体内に戻します。患者さん本人の免疫細胞を使うので、副作用が少ないことがメリットです。

さらに、免疫細胞の中でもがん細胞を破壊する能力の高いNK細胞を使用しており、効果が現れるまでの期間は比較的短時間という特徴があります。

アルファ・ベータT細胞療法(αβT細胞療法)

免疫療法の一つである、アルファ・ベータT細胞療法の概要や特徴について紹介します。

アルファ・ベータT細胞療法は、患者さんご本人の血液を採取し、T細胞を大幅に増殖させて活性化した後に体内へ戻して行います。活性化リンパ球療法の一つとして知られています。増殖させるT細胞の多くは、アルファ・ベータT細胞であることから、アルファ・ベータT細胞療法と呼ばれています。

アルファ・ベータT細胞は、増殖しやすい細胞として知られています。2週間の培養で、200万個の細胞が80億個ほどに増えるというデータもあります。この増殖性を活かして、血液中のリンパ球の数や機能が低下している場合や、他の免疫細胞治療ができないほど病状が悪い場合などでも治療が可能だと言われています。

さらに、アルファ・ベータT細胞は多くの病院や機関で長く行われている治療方法ですので、安全性も高い治療と考えて良いでしょう。

ガンマ・デルタT細胞療法(γδT細胞療法)

免疫療法の一つである、ガンマ・デルタT細胞療法の概要や特徴について紹介します。

ガンマ・デルタT細胞療法とは、がん細胞を攻撃する力を持つ免疫細胞であるリンパ球のうち、ガンマ・デルタT細胞を用いて行います。現在研究が進められており、期待されている治療法の一つです。

ガンマ・デルタT細胞には、がん化をはじめた細胞の変化を素早く感知するという機能があります。ガンマ・デルタT細胞は、T細胞の中でも数が少なく培養が難しいと言われていましたが、現在は安定的な大量培養が可能となり、研究が進んだそうです。

6種複合免疫療法

免疫療法の一つである、6種複合免疫療法の概要や特徴について紹介します。6種複合免疫療法は、体の中にある免疫細胞を一度体外へ取り出して、活性・増殖させて体内へ戻して行います。それぞれ役割が異なる6種類の免疫細胞を1つのチームとして考えることで、より高い効果が期待できるそうです。

6種複合免疫療法で増殖させる細胞は、以下の通りです。

  • キラーT細胞
  • NK細胞
  • NKT細胞
  • ガンマ・デルタ(γδT)細胞
  • 樹状細胞
  • ヘルパーT細胞

6種複合免疫療法

まとめ


今回は免疫寛容について紹介しました。

免疫寛容とは、体内の異物に対して排除するのではなく受け入れて共存することです。免疫力を高める治療法として、さまざまな免疫療法が研究されています。組み合わせ方や取り入れ方により、高い効果が期待できますので、ぜひ医師と相談の上活用を検討してみてください。

福岡同仁クリニックは、今回紹介した6種複合免疫療法を提供しています。

6種複合免疫療法は、約3週間の培養で、1,000〜2,000万個だった免疫細胞を20〜50億個にまで増殖させることができます。

治療内容は採血と点滴だけですので、非常に簡単です。

6種複合免疫療法についてより詳しく知りたい方は、こちらよりご確認ください。

監修:福岡同仁クリニック院長 麻生俊英

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