がん免疫療法コラム
乳がんの第4の治療方法・免疫療法とは? 乳がんの分類や従来の治療方法との違いについて解説
本記事では、乳がん治療におけるさまざまな選択肢、具体的には手術療法、放射線療法、薬物療法、そして最新の免疫療法についての基本的な知識を解説します。各治療法のメリットとデメリットが理解でき、乳がん治療の選択に役立てることが可能です。
乳がんの治療方法について詳しく知りたい患者さんやそのご家族の方々は、ぜひ参考にしてください。
INDEX
乳がんとは?
乳がんは乳腺の組織に発生する悪性の腫瘍です。主に乳管から発生することが多いですが、乳腺小葉から発生する場合もあります。この病気は性別に関わらず発症する可能性があります。しかし、男性の乳がんは女性のそれに比べて非常にまれで、死亡数も女性の100分の1以下とされています。
乳がんの症状には、乳房にしこりができる、乳房にえくぼやただれが発生する、左右の乳房の形が非対称になる、乳頭からの分泌物の出現などがあります。これらの症状は乳がんの可能性を示唆しているため、これらの兆候が見られた場合は、早急に医療機関を受診することが推奨されます。
乳がんは早期に発見されれば治る可能性が高い病気です。早期発見と適切な治療によって、多くの患者さんが治癒に至っています。しかし、乳がんが進行すると、乳房の周辺のリンパ節や遠隔臓器(例えば骨や肺など)に転移することもあり、この場合は治療がより困難になります。
乳がんの分類
乳がんにはさまざまな分類が存在します。特に、乳がんの広がり方に基づく分類や、その性質による分類などが可能です。
乳がんの広がり方による分類
乳がんは、がん細胞の特徴や広がり方によって分類することができます。これは「組織型(病理型)」と呼ばれ、大きく2つのカテゴリーに分けられます。
第一のカテゴリーは「浸潤がん」です。これはがん細胞が周辺の組織に広がっている状態を指し、転移や再発の可能性があることが特徴です。このタイプの乳がんは、特に注意が必要であり、早期の発見と適切な治療が重要です。
一方で、第二のカテゴリーは「非浸潤がん」と呼ばれます。こちらはがん細胞が乳管や乳腺小葉内に留まっている状態を指します。非浸潤がんは、浸潤がんに比べて進行の速度が遅く、転移のリスクも低いとされています。
乳がんの性質による分類
乳がんはその性質により、主に5つのサブタイプに分類されます。これらのサブタイプは、がん細胞の表面に現れる特定のタンパク質に基づいて判定されます。具体的には、ホルモンレセプターの有無、HER2(細胞の増殖に関与するタンパク質)の状態、およびがん細胞の増殖能力の組み合わせにより決まります。このサブタイプによって治療方針が異なるため、正確な診断が非常に重要です。
以下は、主な乳がんのサブタイプです。
- ルミナルA型
ホルモンレセプター陽性で、HER2陰性、がん細胞の増殖速度が遅い。比較的予後が良いとされる。
- ルミナルB型
ホルモンレセプター陽性だが、HER2陽性あるいはがん細胞の増殖速度が速い。治療が複雑になる可能性がある。
- ルミナルHER2型
ホルモンレセプター陽性で、HER2も陽性。特定の薬剤による治療が有効である場合が多い。
- HER2型
ホルモンレセプター陰性で、HER2陽性。HER2を標的とした治療が効果的。
- トリプルネガティブ型
ホルモンレセプター陰性、HER2陰性。従来のホルモン療法やHER2標的療法が効かないため、治療が困難。
乳がんの進行度による分類
乳がんは進行度に応じて分類することが可能で、これは「ステージ(病期)」として知られています。ステージによって治療方針が異なるため、正確なステージングは治療計画において重要です。乳がんは0期から始まり、治療が行われない場合、徐々に進行していきます。
以下は、各ステージごとの特徴や症状を簡単に紹介したものです。
ステージ | 特徴や症状 |
0期 | 非浸潤がんであり、がん細胞が乳管内に留まっている。進行性は低く、早期発見と治療で良好な予後が期待される。 |
Ⅰ期 | 小さな浸潤がんで、リンパ節への広がりはない。早期発見されれば治療成績が良い。 |
ⅡA期 | 中程度の大きさの浸潤がんで、リンパ節に広がり始めている可能性がある。 |
ⅡB期 | より大きな浸潤がんで、リンパ節への広がりが見られる。 |
ⅢA期 | さらに大きく進行したがんで、複数のリンパ節に広がっている。 |
ⅢB期 | 乳房の周辺組織に広がりを見せる。皮膚や胸壁にも影響が及ぶ可能性がある。 |
ⅢC期 | 乳房の周辺の大きなリンパ節に広がっている。非常に進行した状態。 |
Ⅳ期 | 遠隔転移が発生している最も進行したステージ。肺、肝臓、骨など他の臓器にがんが広がっている。 |
乳がんの従来の治療方法
乳がん治療にはいくつかの一般的な方法があります。主に、「手術療法」「放射線療法」「薬物療法」です。
これらの治療法は単独で行われることもあれば、複数を組み合わせて行われることもあります。治療方法の選択は、がんの広がり方や性質、進行度を考慮し、また患者さんの希望や健康状態、年齢、既存の病気の有無なども重要な決定要素となります。
手術療法
乳がんのステージが0期からⅢ期の場合、手術による腫瘍の切除が主な治療法の一つです。手術の方法は大きく分けて二つあり、それぞれ異なる特徴を持っています。
- 乳房温存術
乳房温存術では、乳房を極力残しながら腫瘍のみを切除します。乳房の形を保持することができるため、患者の心理的な負担を軽減することが可能です。ただし、腫瘍の大きさや位置、乳房のサイズによっては適用できない場合があります。
- 乳房全切除術
こちらは乳房を全て切除する方法で、広範囲に腫瘍が広がっている場合や、再発のリスクが高い場合に選択されます。乳房を全切除した場合、乳房再建手術により乳房を作り直すことが可能です。乳房再建は患者さんの希望に応じて、自己組織を使用する方法や人工物(インプラント)を用いる方法などがあります。
乳がんの腫瘍切除と合わせて、以下の手術も行うことがあります。
- センチネルリンパ節生検
がん細胞が腋のリンパ節に転移しているかどうかを調べる手術です。特定の染色剤や放射性物質を使用して最初にがん細胞が到達しそうなリンパ節(センチネルリンパ節)を特定し、そのリンパ節を取り出して検査します。この手術により、リンパ節転移の有無を確認できます。
- 腋窩リンパ節郭清
腋のリンパ節を最初から全部摘出する手術です。センチネルリンパ節生検で転移が確認された場合や、あらかじめリンパ節転移の可能性が高いと判断された場合に行われます。リンパ節郭清により、転移がん細胞の拡散を抑制することが可能ですが、手術後に腕のむくみなどの副作用が起こることがあります。
放射線療法
放射線療法は、放射線を照射してがん細胞を死滅させる治療法です。手術療法と同じく、照射された部位にのみ効果を発揮する局所治療の一種とされています。この治療は特に、乳がんの手術後に温存された乳房や乳房周囲のリンパ節に対して行われることが多く、乳がんの再発を防ぐ目的で用いられます。放射線はがん細胞のDNAを損傷させ、その増殖を抑制することで効果を発揮します。安全かつ効果的な放射線治療は、乳がん治療における重要な選択肢の一つであり、再発リスクを減少させるために欠かせない方法です。
薬物療法
薬物療法の主な方法としては、化学療法、ホルモン療法、分子標的療法の3つがあります。乳がんの性質や治療目的に応じて使用する最適な薬剤を選択します。特にステージが進んだり、がんが転移している場合は、これらの薬物療法が積極的に用いられることが多いです。これらの治療は、がん細胞の増殖を抑制し、病状の進行を遅らせる効果が期待されます。
化学療法
乳がん治療において、抗がん剤を使用した治療法が広く採用されています。特に、異なる作用機序を持つ複数の抗がん剤を組み合わせて使用する「多剤併用療法」が一般的です。この方法により、がん細胞に対する攻撃の幅を広げ、治療効果を高めることができます。
抗がん剤の投与タイミングや目的により、主に以下の2種類に分けられます。
- 術前化学療法
手術を行う前に抗がん剤を投与する方法です。この治療の目的は、手術をより安全かつ効果的に行うために、腫瘍を縮小させたり、手術範囲を限定することにあります。また、術前化学療法はがんの反応を見るためのバロメーターとしても機能し、残りの治療方針を決定する際の重要な情報を提供します。
- 術後化学療法
手術後に抗がん剤を投与する方法で、主に転移や再発のリスクを減少させることを目的とします。術後化学療法は、手術によって取り除くことができなかった微小ながん細胞を殺すことで、治療の完結を目指します。
- ホルモン療法
乳がんの中には、女性ホルモンが関与するタイプ(ルミナルタイプ)が存在します。このタイプの乳がんに対しては、女性ホルモンの働きを抑制するホルモン療法が特に有効です。ホルモン療法は、がん細胞の成長を促すエストロゲンの影響を減らすことを目的としています。
この治療に使用される薬物は、患者さんの閉経前後の状態によって異なります。閉経前の患者さんには、卵巣の機能を抑える薬剤やエストロゲンの作用をブロックする薬剤が用いられることが多く、閉経後の患者さんには、エストロゲンの生成を抑制する薬剤が適しています。ホルモン療法により、がん細胞の成長速度を遅らせたり、再発リスクを低減する効果が期待されます。
- 分子標的療法
がん細胞の増殖に関与する特定の分子(タンパク質や遺伝子など)を標的とする治療法があります。この治療法は、がんの増殖を抑制する効果があり、従来の抗がん剤に比べて毒性が低く、体への負担も少ないとされています。副作用がまったくないわけではありませんが、全体的にはより安全性が高い治療法と言えます。
分子標的療法は、抗がん剤と併用することも可能で、その場合、がん細胞の増殖をさらに効果的に抑制することが可能です。例えば、特定のタンパク質を標的とする抗体医薬や、特定の遺伝子の活動を抑える分子標的薬などがあります。これらの薬剤は、がん細胞に特異的に作用するため、健康な細胞への影響を最小限に抑えることができるというメリットがあります。
乳がんの第4の治療方法・免疫療法
乳がんの治療法として、従来は手術、放射線療法、薬物療法が主流でしたが、これらは体に大きな負担をかけることがあります。近年、第4の治療法として注目を集めているのが「免疫療法」
です。免疫療法は、体に備わる免疫力を強化し、がん細胞を攻撃する方法です。この治療法は全身に効果が及ぶため、切除が困難な腫瘍や検査で発見されていない腫瘍にも効果を発揮し、手術後のがん転移の予防にも有効です。
従来の3つの治療法でがんの進行を止めることができなかった場合でも、免疫療法は治療の選択肢となり得ます。さらに、免疫療法は他の治療法と併用することも可能で、治療効果を高めることが期待されます。
免疫療法には複数の方法が存在します。例えば、免疫チェックポイント阻害剤は、がん細胞が免疫応答を回避するメカニズムを阻害し、免疫システムががん細胞を認識しやすくします。また、がんワクチンは、特定のがん抗原に対する免疫応答を誘導し、がん細胞を攻撃する免疫細胞を活性化します。これらの治療法は、がん細胞に対する免疫システムの働きを強化し、がんの成長を抑制することが目的です。
免疫チェックポイント阻害療法
がん細胞の活動により弱められた免疫の攻撃力を回復させる方法の一つが、免疫チェックポイント阻害薬を使用する治療です。この薬物療法は、免疫細胞にかかっているブレーキを解除し、免疫細胞が本来の力を発揮できるようにすることを目的としています。この治療法は大規模な臨床試験を通じて、その治療効果や安全性が証明されています。
免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞が免疫細胞を抑制するメカニズムを阻害することで、免疫システムの自然な反応を促進します。これにより、免疫細胞はがん細胞に対してより効果的に働くことが可能です。治療可能ながんの種類は、使用する免疫チェックポイント阻害薬によって異なります。
しかし、免役チェックポイント阻害薬の副作用は、全身の免疫系に及ぶ可能性があり、自己免疫疾患に類似した様々な症状から、稀に間質性肺炎、心筋炎など、主要臓器に障害が及ぶ場合もあることが知られています。このため、肺や心臓など主要臓器を含め全身管理のできる総合病院での導入が安全と思われます。
免疫細胞療法
免疫療法の一つとして、患者さん自身の血液から免疫細胞を採取し、それを増殖・活性化させた後、点滴などで体内に戻す方法があります。この治療法は、特に進行がんや治療が困難ながんに対して行われることが多いです。
この免疫細胞療法のメリットとしては、重篤な副作用が起きにくく、体への負担が比較的少ない点が挙げられます。自己の免疫細胞を使用するため、他の治療方法に比べて副作用のリスクが低いとされています。
しかし、この治療法にはいくつかの注意点があります。まず、保険適用外であることが多く、治療費が高額になる可能性があることです。また、効果には個人差があり、全ての患者さんに同じ結果が得られるとは限りません。さらに、軽度な副作用が起きる可能性もあります。
免疫療法にはさまざまな方法がありますが、主なものを2つ紹介します。
NK細胞療法
NK細胞療法は、免疫細胞療法の一つで、特にがん細胞を見つけ出して攻撃する能力を持つNK細胞(自然殺細胞)に焦点を当てた治療法です。この方法では、患者さんの血液からNK細胞を採取し、それらを体外で増殖させ、活性化します。その後、これらの強化されたNK細胞を患者さんの体内に戻し、がん細胞に対してより効果的に働かせることを目指します。
NK細胞は本来、体内に侵入した異物やがん細胞を認識し、迅速に攻撃する役割を持っています。NK細胞療法では、これらの細胞の自然ながん対抗能力を強化し、特に抵抗力のあるがん細胞や再発がんに対して効果を発揮することが期待されています。
6種複合免疫療法
6種複合免疫療法は、がん治療において革新的なアプローチの一つです。この治療法では、それぞれ異なる役割を持つ6種類の免疫細胞を用いてがんを治療します。これらの免疫細胞には、がん細胞を直接攻撃する細胞や、免疫応答を調節する細胞などが含まれており、それぞれが体内で特定の役割を果たします。
6種複合免疫療法の特徴は、複数の免疫細胞を組み合わせることで、がん細胞に対する攻撃力を強化し、治療効果を高める点にあります。これにより、従来の単一の免疫細胞療法よりも幅広い種類のがん細胞に対して効果を発揮する可能性があります。
治療過程では、患者さん自身の免疫細胞を採取し、それらを体外で増殖させて活性化します。活性化された免疫細胞は、再び患者さんの体内に戻され、がん細胞に対する攻撃を強化します。この治療法は、特に抵抗力が強いがん細胞や、従来の治療法に反応しないがん細胞に対して効果的とされています。
従来の治療方法と免疫療法の違い
免疫療法とその他の治療方法の特徴を、以下のようにまとめました。
治療方法 | メリット | デメリット |
手術療法 | がんを直接切除できる。 | すべての場合に手術が適用可能ではない。転移や再発のリスクがあり、患者さんの体力が必要。 |
放射線療法 | がん細胞に直接アプローチできる、手術が困難な部位にも照射できる場合がある。 | 転移や再発のリスクがある、副作用が生じる可能性がある。 |
薬物療法 | 体全体に効果が及び、進行したステージのがんにも効果を発揮する。 | 正常な細胞にも損傷を与える可能性がある、副作用が強い場合がある。 |
免疫療法 | 体全体に効果が及び、重篤な副作用が起きにくい、転移や再発の予防に効果がある、体への負担が少ない。 | 保険適用外であることが多く、治療法によっては受診できる医療機関が限られている。 |
まとめ
本記事では、乳がん治療におけるさまざまな治療方法を紹介し、特に免疫療法の重要性とその進展に注目しました。その中でも特に注目すべきは、「6種複合免疫療法」です。この療法は、異なる役割を持つ6種類の免疫細胞を組み合わせることで、がん治療の効果を高めることを目指しています。
同仁がん免疫研究所では、この6種複合免疫療法を提供しており、がん治療の新たな可能性を開拓しています。6種複合免疫療法は、従来の治療法に反応しないがん細胞にも効果を発揮する可能性があり、特に進行がんや再発がんの治療において重要な役割を果たしています。
6種複合免疫療法についてさらに詳しく知りたい方はこちらよりご確認ください。
監修:福岡同仁クリニック院長 麻生俊英
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