がん免疫療法コラム

がん悪液質とは? 診断基準や余命への影響、治療法などについて解説

「がんになると体重が減る」という話を聞いたことはありますか。その体重減少はがん悪液質が関係しているかもしれません。

悪液質とは、がんの進行や治療、サイトカインの作用などにより意図せず体重が減少する症状のことです。悪液質が進行すると体力が低下するため、日常生活が困難になる場合もあります。

本記事では、がん悪液質について、診断基準や余命への影響、治療法などを解説します。

がん悪液質とは?


がん悪液質とは、がんが進行することで、特にダイエット等の原因で体重を減少させているわけではないにも関わらず、体重が下がり体力を失ってしまう状態のことを指します。これは、ただ単に食欲不振や栄養不足の問題だけでなく、がん自体が体内のエネルギー代謝や筋肉の機能に影響を及ぼすことが原因です。

がん悪液質ハンドブックによれば、この症状は「通常の栄養サポートでは完全に回復することができず、進行性の機能障害に至る骨格筋量の持続的な減少(脂肪量減少の有無を問わない)を特徴とする多因子性の症候群」と定義されています。この定義からも、がん悪液質が単なる栄養不足の問題ではないことが分かります。

そして、がん患者さんの約80%にがん悪液質の症状が認められるとされています。これは、がん治療を受ける多くの患者さんが、この問題に直面する可能性があることを示しており、医療現場でもその対策や治療が非常に重要な課題となっています。

悪液質の症状

悪液質とはがんが進行する際に起こる症状の総称であり、これによって多くの身体的・精神的な変化が引き起こされます。具体的な症状としては、まず体重減少が挙げられます。体重が減少すると、全体的な体力の低下が生じ、日常生活の質が低下する可能性があります。

また、サルコペニアが発生することもあります。これは骨格筋量の低下、筋力の低下、そして身体機能の低下を伴う症状です。筋肉が萎縮してしまい、立ち上がる、歩くといった日常の動作すら困難になることがあります。

食欲不振や早期満腹感は、食事量が減少し、栄養状態が悪化する原因となります。この他にも、疲労、疼痛、嘔吐や悪心といった身体的な不調が現れることがあるだけでなく、うつや不安といった精神的な変化も見られることがあります。また、味覚や嗅覚の変化も報告されており、食事が以前とは異なる味に感じる、あるいは臭いに過敏になることがあると言われています。

悪液質と飢餓の違い

体重減少の原因として、悪液質と飢餓が主要なものとして知られています。これらの症状はがん治療を受ける患者さんに特に見られることが多く、その特徴や原因が異なります。

がん治療における悪液質は、患者さんが特に空腹を感じているわけではないにも関わらず、体のエネルギー消費が進行し、体重が減少してしまいます。

一方、がん治療における飢餓は、外科治療などの治療を受けることで、実際に空腹を感じているにもかかわらず食事を十分に摂取できない状態が続き、これが体重減少の原因となります。

 飢餓  悪液質
 体重  減少  減少
 脂肪組織  減少  減少
 骨格筋  維持  減少
 炎症蛋白質の合成  維持  増加
 安静時エネルギー消費量  減少  増加

さらに、悪液質と飢餓の両方の症状が現れるケースも報告されています。これは、治療の影響やがんそのものの進行によって、体のエネルギー消費と食事摂取の両方に問題が生じることから発生します。

悪液質の原因


悪液質は、がん患者さんに見られる体重減少や筋肉量の低下などの症状を引き起こす病態であり、その主な原因は「サイトカイン」と呼ばれる物質にあります。このサイトカインは、がん細胞によって作り出される特定の物質で、その働きによって悪液質の症状が発生すると考えられています。

サイトカインがどのように悪液質の症状を引き起こすのかというと、まずこの物質が脳に作用することで食欲が抑制されます。食欲が抑えられると、当然ながら食事量が減少し、それによって体重が減少する可能性が高まります。

しかし、食欲抑制だけが原因ではありません。サイトカインには、筋肉の量を低下させる作用と、脂肪を燃焼させる作用もあります。このため、食事量が減少していないにも関わらず、筋肉が萎縮し、脂肪が燃えることで、体重が自然と減少していくのです。

これらの作用により、がん患者さんは何もしていないのに体重が減少するという状況が生じるわけです。悪液質の症状は、がんの進行や治療の影響だけでなく、このようなサイトカインの働きによっても引き起こされることがわかります。

悪液質であるかどうかの診断基準


悪液質の診断基準には、病態の進行度に応じていくつかのステージがあります。

過去6ヵ月間の体重減少≦5%と食欲不振・代謝異常が認められれば、「前悪液質」と診断されます。経口摂取不良/全身性炎症を伴う場合は「悪液質」、悪液質の症状に加え、異化亢進し、抗がん治療に抵抗性を示す場合は「難治性悪液質」と診断されます。

前悪液質

前悪液質は、悪液質の初期段階を示す病態です。この段階では、過去半年間の体重の減少が5%以下という軽微な変化が見られますが、これが悪液質への進行の兆候となることが多いです。また、食欲不振や体の代謝の異常などの症状が現れ始めるため、日常生活において食事の量や質の変化を感じることがあるかもしれません。

悪液質

悪液質では、経口摂取不良や全身性炎症が見られます。

具体的には、以下のいずれかの条件を満たす場合、悪液質と診断されることが一般的です。

  • 過去半年の体重減少が5%を超える
  • 2%を超える体重減少、BMI20%未満
  • 2%を超える体重減少、サルコペニアの状態を伴う

難治性悪液質

難治性悪液質では、経口摂取が不足し、全身に炎症が起こる特徴があります。さらに、異化亢進状態と呼ばれる病態にあり、通常の治療に対して抵抗性を示すため、治療が非常に困難となります。全身の機能が低下し、日常生活においても多くの支障をきたすことが多いです。また、この状態に進行すると、患者さんの予測生存期間は3か月未満と非常に短くなることが知られています。

悪液質の余命への影響


悪液質を持つ患者さんは、生存率の低下のリスクが高まると指摘されています。具体的には、悪液質の状態では脂肪だけでなく筋肉までが燃焼してしまうため、体重の減少とともに身体機能も低下します。このような状態は、患者さんが要介護となるリスクを増加させ、抗がん剤などの治療に関連する副作用が出現しやすくなります。この結果、がんの治療を継続することが難しくなる場合も多いです。

進行がん患者さんの全生存期間と体重減少率・BMIとの関係を以下に示します。

 生存期間中央率 基準
 21か月 BMIが25以上かつ体重減少率が2.5%以下
 15か月 ●     BMIが20以上25未満かつ体重減少率が2.5%以下

●     BMIが28以上かつ体重減少率が2.5%以上体重減少率が6%未満

 11か月 ●     BMIが28以上かつ体重減少率が6%以下11%未満

●     BMIが20以上25未満かつ体重減少率が2.5%以上体重減少率が6%未満

 8か月 ●     BMIが28以上かつ体重減少率が11%以上

●     BMIが25以上かつ体重減少率が6%以上15%未満

●     BMIが22以上かつ体重減少率が6%以上15%未満

●     BMIが20以上かつ体重減少率が6%以上11%未満

●     BMIが20未満かつ体重減少率が6%未満

 4か月 ●     BMIが25以上かつ体重減少率が15%以上

●     BMIが22以上かつ体重減少率が15%以上

●     BMIが20以上かつ体重減少率が11%以上

●     BMIが20未満かつ体重減少率が6%以上

出典:がん悪液質ハンドブック

このデータから、体重の減少とBMIが低下するほど生存期間が短くなることが分かります。

そして、前述の通り、難治性悪液質のステージまで進行すると、予測される生存期間が短縮し、3か月未満となることが示されています。このことからも、悪液質の早期発見や適切な対応が極めて重要であると言えるでしょう。

悪液質によって生活の質(QOL)も低下する


悪液質は、がん患者さんの生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼすことが知られています。まず、筋力の低下により、日常生活の動作が困難になったり、小さなことで疲れやすくなったりします。さらに、体重が減少することで体型が変わり、見た目に対する自己評価や自信が低下する可能性があります。このような外見の変化は、社会的な交流やコミュニケーションにも影響を及ぼし、社交性が低下することもあるでしょう。

また、食欲不振が続くと、食事の時間が家族や友人との大切なコミュニケーションの場としての役割を果たさなくなり、家族間の関係にもひずみが生じるリスクも考えられます。

悪液質の治療法


悪液質が進行すると、治療の難易度が高まり、がん患者さんの回復を困難にします。このため、前悪液質の段階での早期診断と介入が極めて重要です。患者さん一人ひとりの状態やライフスタイル、過去の病歴や生活習慣を考慮しながら、長期間続けられる最適な治療法を選定することが求められます。

薬物療法

2023年9月時点の情報として、日本における悪液質の治療に特化した薬剤は承認されていません。しかし、悪液質に伴う症状を緩和するために薬物療法が適用されることがあります。その際、症状の改善を実感することは可能ですが、短期的な効果や有害事象の発生など、さまざまな課題が指摘されています。例えば、副作用が強い場合や、持続的な効果が期待できない場合などが挙げられます。

そのため、薬物療法だけでの治療が困難とされ、他の治療法との併用が必要とされています。栄養療法やリハビリテーションなど、総合的な治療アプローチが求められるのです。

一方、悪液質の治療薬の開発も進められており、アナモレリンやエノボサームといった新規薬剤が研究されています。これらの薬剤は、今後の臨床試験の結果や安全性のデータ次第で、悪液質治療の新たな選択肢として期待されています。

非薬物療法

悪液質の治療において、薬物療法だけでなく、栄養療法や運動療法が取り入れられることもあります。栄養療法では、患者さんの栄養状態を見極めた上で、栄養に関する指導やカウンセリングが実施されます。また、サプリメントの摂取を推奨する場合もあり、個々のニーズに合わせた治療が行われるのが特徴です。

一方、運動療法は、患者さんの体調や状態を考慮して、ウォーキングや軽いストレッチなどの体を動かす活動が推奨されています。この療法のメリットとして、QOL(生活の質)や身体機能の向上が期待される点が挙げられます。運動を継続することで、筋肉の低下を防ぎ、日常生活の質を高めることができるとされています。しかし、継続することが難しいと感じる患者さんも多く、治療を途中で断念するケースもしばしば見られます。

6種複合免疫療法

まとめ


本記事では、がん患者さんによく見られる悪液質について解説しました。悪液質はがんの進行や治療、サイトカインの作用などさまざまな原因で引き起こされます。具体的な症状としては体重減少が挙げられ、それに伴い体力を失っていくのが特徴です。

悪液質は「前悪液質」「悪液質」「難治性悪液質」の3つのステージに分類されますが、難治性悪液質まで進行すると効果的な治療方法がなく、予測生存期間は3か月未満と言われています。

福岡同仁クリニックでは、新たな治療法として注目を集める「6種複合免疫療法」を提供しております。この治療法は、がん細胞を攻撃する力を持つ免疫細胞を活性化させ、がんの進行を抑制するものです。

がん治療の副作用の一つである「体重減少」は悪液質の一因です。6種複合免疫療法は、自身の免疫細胞を利用するため副作用が少ないとされており、高齢者や体力が低下している方でも受けられる治療法なのです。

6種複合免疫療法についてさらに詳しく知りたい方はこちらよりご確認ください。

お問い合わせ・資料請求はこちら

この情報をシェアする

よく読まれている記事