がん免疫療法コラム
マックトリガーとは?副作用が少ない新しいがん免疫療法の仕組みと最新情報を紹介。

INDEX
マックトリガーとは

マックトリガー(MacTrigger)は、2023年4月に九州大学大学院工学研究院の研究グループが発表した、革新的ながん治療法の概念です。この研究は、片山佳樹教授、新居輝樹助教、および谷戸謙太らによって行われ、従来のがん治療とは根本的に異なるアプローチとして注目されています。
九州大学の公式発表によると、マックトリガーは「がんで炎症の引き金役となる細胞医薬」として開発されました。この名前は、免疫細胞の一種であるマクロファージ(Macrophage)と、引き金を意味するトリガー(trigger)を組み合わせたものです。
研究グループは、これまでの抗がん剤治療における副作用の問題を解決するため、「治療薬に依存しないがんの治療法」の開発を目指していました。その結果として生まれたのが、体自身の免疫システムを活用してがんを攻撃させる、このマックトリガーという新しい概念なのです。
参考:https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/913/
従来のがん治療薬との根本的な違い

従来の抗がん剤は、がん細胞を直接的に攻撃・破壊することを目的としています。しかし、この方法では正常な細胞も同時にダメージを受けてしまうため、脱毛、吐き気、免疫力低下などの深刻な副作用が生じることが大きな問題となっていました。
一方、マックトリガーは「がん細胞を直接攻撃する薬」ではなく、「体自身にがんを治療させるきっかけを与える物質」という、全く新しいコンセプトに基づいています。この根本的な発想の転換により、従来の治療法では避けられなかった副作用を大幅に軽減できる可能性があると期待されています。
マックトリガーの治療メカニズム

マクロファージの性質を利用した治療戦略
マックトリガーの治療戦略を理解するためには、まず「マクロファージ」という免疫細胞について知る必要があります。マクロファージは、私たちの体の中で異物を食べて処理する「掃除屋」のような役割を持つ細胞です。
重要なのは、マクロファージが「がん組織に自然に集まる性質」を持っていることです。そして、マクロファージは環境に応じて自分の姿や働きを変える「変身能力」を持っています。がんの周辺では「M2型マクロファージ」と呼ばれる状態に変化し、本来であればがんの成長を助けるような働きをしてしまいます。
研究グループは、この性質を逆手に取ることを考えました。遺伝子改変技術により、M2型に変化した時に強力な炎症物質を放出するように改変したマクロファージを作り出したのです。これがマックトリガーの正体です。
炎症を引き起こす「引き金」としての役割
マックトリガーががん組織に到達し、M2型に変化すると、TNF-α(腫瘍壊死因子アルファ)という強力な炎症物質を大量に放出します。TNF-αは、組織に炎症反応を引き起こす重要な物質で、これによってがん組織が「炎症状態」になります。
炎症が起こると、私たちの体は「異物を排除する」という自然な防御反応を示します。この結果、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)やキラーT細胞といった、がん細胞を攻撃する免疫細胞が効率的にがん組織に集まってきます。
つまり、マックトリガーは直接がんを攻撃するのではなく、体本来の免疫システムを「起動させる引き金」として機能するのです。一度免疫応答が始まれば、マックトリガー自体は約4日以内に体内から消失するものの、活性化された免疫細胞が継続してがんと戦い続けることが期待されています。
がん組織でのみ作用する「ロック機能」の安全性
マックトリガーには重要な安全機構が組み込まれています。それが「ロック機能」です。この機能により、マックトリガーは健康な臓器では活性化せず、がん組織でのみ炎症を引き起こすように設計されています。
具体的には、マックトリガーがM2型マクロファージに分極しない限り、炎症物質であるTNF-αの放出は起こりません。健康な組織では通常M2型への分極は起こらないため、正常な臓器に不必要な炎症が広がることを防ぐことができます。
マウスを用いた動物実験では、この安全機構が有効に働くことが確認されており、健康な臓器での炎症反応は観察されず、大きな副作用も見られませんでした。これは、従来の抗がん剤治療と比較して、副作用のリスクを極限まで軽減できることを示唆しています。
マックトリガーが注目される4つの理由

副作用が極めて少ない
マックトリガーが最も注目される理由の一つが、その安全性の高さです。従来の抗がん剤治療では、患者の88.1%が平均3.5つの副作用を経験するとされており、これが治療継続の大きな障害となっていました。
しかし、マウス実験においてマックトリガーを投与した結果では、大きな副作用は観察されていません。これは、マックトリガーが正常な細胞を攻撃しないためです。がん組織でのみ特異的に作用する設計により、健康な組織へのダメージを避けることができると考えられています。
ただし、これらの結果はあくまで動物実験レベルでの成果であり、人間での安全性については今後の臨床試験での検証が必要であることは重要な点です。
幅広いがん種への適用可能性
マックトリガーのもう一つの大きな特徴は、理論的には多様ながん種に適用できる可能性があることです。マクロファージは体内の様々な種類のがん組織に集まる性質を持っているため、乳がん、大腸がん、肺がんなど、異なる臓器に発生したがんにも対応できると期待されています。
これは特に、従来の治療法では選択肢が限られていた患者さまにとって、新たな希望となる可能性があります。ただし、実際にどの程度の範囲のがん種に有効かについては、今後の研究結果を待つ必要があります。
一度の投与で長期的な効果が期待できる
従来の抗がん剤治療は、通常2週間ごとに複数回投与する必要があり、これが副作用のリスクを高める要因の一つとなっていました。
一方、マックトリガーは一度の投与で長期的な効果が期待されています。これは、マックトリガーによって活性化された免疫システムが「免疫記憶」を獲得し、がん細胞を継続的に認識・攻撃し続ける可能性があるためです。この免疫記憶効果により、再発防止にも寄与することが期待されています。
免疫チェックポイント阻害薬との相乗効果
研究段階の報告によれば、マックトリガーと免疫チェックポイント阻害薬(例:抗PD-1抗体)を組み合わせて使用することで、相乗的な効果が得られる可能性が示唆されています。
参考:https://3i-partners.co.jp/cancer-genomic-medicine/mactrigger/
免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞が免疫細胞にかけている「ブレーキ」を解除する薬です。一方、マックトリガーは免疫システムを活性化する「アクセル」の役割を果たします。この2つのアプローチを組み合わせることで、これまで治療が困難だった症例に対しても効果が期待できる可能性があります。
マックトリガーの科学的エビデンスと研究データ

九州大学のマウス実験による実証結果
マックトリガーの効果は、厳密に管理された動物実験によって実証されています。マウスを用いた実験において、マックトリガーを一度だけ投与したところ、投与から8日目以降に顕著な抗腫瘍効果が現れることが観察されました。
参考:https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/913/
特に重要な発見は、マックトリガー投与後に腫瘍組織内へのNK細胞やキラーT細胞といった免疫細胞の浸潤が大幅に増加していることが確認されたことです。これは、マックトリガーが期待通りに免疫システムを活性化し、がん組織に免疫細胞を呼び寄せていることを示しています。
また、マックトリガー自体は投与後約4日以内に体内から自然に消失するようプログラムされているにも関わらず、その後も継続的な抗腫瘍効果が観察されました。これは、一度活性化された免疫システムが継続してがんと戦い続けることを示唆しています。
国際学術誌『Journal of Controlled Release』掲載論文
マックトリガーの研究成果は、2023年4月19日に国際的な学術誌である『Journal of Controlled Release』に掲載されました。
参照:https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0168365923002602
この学術誌は薬物送達システムや制御放出技術の分野において権威ある学術誌として知られており、厳格な査読を経て掲載されることから、研究の科学的妥当性が国際的に認められたことを意味します。
掲載論文のタイトルは「Engineered macrophages acting as a trigger to induce inflammation only in tumor tissues based on arginase 1-responsive TNF-α accelerated release」であり、マックトリガーの詳細な作用メカニズムや実験結果が詳しく報告されています。
治療効果と安全性に関する具体的データ
動物実験において最も注目すべきデータの一つは、正常組織では炎症反応が全く観察されなかったことです。これは、マックトリガーの「ロック機能」が有効に働き、健康な臓器に悪影響を与えないことを示しています。
また、マックトリガー投与による重篤な副作用や毒性も報告されておらず、従来の抗がん剤と比較して安全性が大幅に向上する可能性が示されています。ただし、これらのデータは現段階では動物実験レベルでの結果であり、人間における安全性と有効性については今後の臨床試験での検証が必要不可欠であることを強調しておく必要があります。
マックトリガーと既存のがん治療法との比較

抗がん剤(化学療法)との違い
従来の抗がん剤は、がん細胞の分裂を阻害したり、直接的に細胞死を誘導したりすることでがんを治療します。しかし、正常細胞とがん細胞を完全に区別することができないため、健康な細胞も同時にダメージを受けてしまいます。特に細胞分裂が活発な髪の毛、消化管粘膜、骨髄などが影響を受けやすく、脱毛、消化器症状、血球減少などの副作用が現れやすいです。
一方、マックトリガーは、がん細胞を直接攻撃するのではなく、体の免疫システムを活性化させることでがんと戦います。そのため、健康な細胞への直接的なダメージを避けることができ、副作用を大幅に軽減できると期待されています。
また、抗がん剤は通常2~3週間ごとに繰り返し投与する必要がありますが、マックトリガーは一度の投与で長期的な効果が期待できるという点も大きな違いです。
免疫チェックポイント阻害薬との違い
免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞が免疫細胞にかけている「ブレーキ」を解除することで、既存の免疫細胞の働きを回復させる治療法です。これは「ブレーキ解除」のアプローチと言えます。
対して、マックトリガーは免疫システム全体を活性化させる「引き金」の役割を果たします。がん組織で炎症を引き起こすことで、より多くの免疫細胞をがん組織に呼び寄せ、免疫応答を強化します。これは「アクセルを踏む」アプローチと例えることができます。
このように、両者は異なるメカニズムでがん免疫を強化するため、将来的には併用療法による相乗効果も期待されています。
その他の細胞療法(CAR-T細胞療法など)との違い
CAR-T細胞療法は、患者のT細胞を体外で遺伝子改変し、特定のがん抗原を認識するように設計してから体内に戻す治療法です。主に血液がんに対して高い効果を示していますが、固形がんへの適用は限定的で、製造コストが高く、サイトカイン放出症候群などの重篤な副作用のリスクがあります。
一方、マックトリガーはマクロファージを利用して免疫システム全体を活性化させる方法で、理論上は固形がんを含む幅広いがん種に適用可能です。また、製造工程が比較的簡単で、より安全性が高いことが期待されています。
ただし、これらの比較は現段階では理論的なものであり、実際の効果や安全性については今後の臨床試験の結果を待つ必要があります。
マックトリガーの実用化はいつ?

現在の開発段階と臨床試験の予定
2025年時点において、マックトリガーは動物実験段階にあり、まだ人間を対象とした臨床試験は開始されていません。新しい医薬品や治療法が患者さまに実際に使用できるようになるまでには、前臨床試験(動物実験など)、第Ⅰ相臨床試験(安全性確認)、第Ⅱ相臨床試験(有効性確認)、第Ⅲ相臨床試験(既存治療との比較)という長いプロセスを経る必要があります。
研究グループは現在、ヒトでの臨床試験に向けた準備を進めており、2026年から2027年頃の臨床試験開始を目標としているとの情報がありますが、これは現時点での予定であり、研究の進展状況や規制当局の承認プロセスによって変更される可能性があります。
また、AMED(日本医療研究開発機構)からの支援を受けており、国としてもこの技術の発展を後押ししている状況にあります。
ヒトへの応用に向けた課題
マックトリガーが実用化に向けて乗り越えなければならない課題がいくつかあります。まず最も重要なのは、ヒトにおける安全性の確認です。動物実験では良好な安全性プロファイルが示されていますが、人間と動物では生理機能が異なるため、ヒトでの安全性を厳密に検証する必要があります。
次に、ヒトでの有効性の確認が必要です。マウス実験で示された効果が、実際にがん患者さまにおいても同様に得られるかどうかは、臨床試験を通じて検証しなければなりません。
さらに、製造工程の標準化や品質管理システムの確立、薬事承認に向けた各種データの蓄積なども重要な課題となります。
実用化までの予想スケジュール
一般的に、新しいがん治療法が基礎研究から実用化まで到達するには10年から15年程度の期間が必要とされています。マックトリガーは2023年に基礎研究成果が発表されたばかりであり、実用化まではまだ数年以上の時間が必要と考えられます。
最も楽観的なスケジュールでも、臨床試験の開始が2026~2027年頃、その後第Ⅰ相、第Ⅱ相、第Ⅲ相の各臨床試験を順次実施し、薬事承認を経て実際に患者さまが治療を受けられるようになるのは2030年代に入ってからと予想されます。
したがって、現在がん治療を必要としている患者さまにとっては、マックトリガーの実用化を待つのではなく、現在利用可能な治療法の中から最適な選択をすることが重要です。
今すぐ受けられるがん免疫療法の選択肢

6種複合免疫療法
マックトリガーの実用化を待つ間にも、現在受けることができる免疫療法があります。その一つが「6種複合免疫療法」です。この治療法は、患者さまご自身の血液から6種類の免疫細胞を取り出し、体外で活性化・増殖させてから体内に戻すという方法です。
6種複合免疫療法で使用される6種類の免疫細胞は、キラーT細胞、NK細胞、NKT細胞、γδ(ガンマデルタ)T細胞、樹状細胞、ヘルパーT細胞です。これらの細胞は、それぞれ異なる役割を持ちながら連携してがん細胞を攻撃します。
治療は30ccの採血から始まり、約3週間の培養期間を経て1,000〜2,000万個だった免疫細胞を20〜50億個にまで増殖させます。その後、点滴によって患者さまの体内に戻されます。患者さま自身の細胞を使用するため、拒絶反応の心配がなく、副作用も少ないという特徴があります。
参考:https://gan911.com/6immunotherapy/
6種複合免疫療法の治療実績と有効率
6種複合免疫療法の治療効果については、実際の臨床データが蓄積されています。直近の治療実績データによると、1クール6回の治療を受けたがん患者さまを対象とした調査において、治療有効率は約79%以上という結果が報告されています。
6種複合免疫療法が適応するがんの種類
6種複合免疫療法は、一部のT細胞・NK細胞・NKT細胞型白血病および悪性リンパ腫を除く、ほぼ全てのがんに対応可能とされています。これには、乳がん、肺がん、大腸がん、胃がん、肝がん、膵がん、腎がんなど、様々な臓器のがんが含まれます。
治療は全国の提携医療機関で実施されており、患者さまのお住まいの地域に関係なく、お近くの医療機関での治療が可能です。また、手術、化学療法、放射線治療といったがんの3大治療との併用も可能で、これらの治療の副作用軽減効果も期待できます。
マックトリガーに関するよくある質問

マックトリガーはいつ実用化されますか?
マックトリガーは現在研究段階にあり、実用化まではまだ数年以上の時間が必要と予想されます。2026年から2027年頃に臨床試験が開始される予定ですが、その後第Ⅰ相、第Ⅱ相、第Ⅲ相の各臨床試験を経て薬事承認を取得する必要があります。
最も順調に進んだ場合でも、患者さまが実際に治療を受けられるようになるのは2030年代に入ってからと考えられます。
マックトリガーはどこで受けられますか?
現時点では、マックトリガーは研究段階であり、一般の患者さまが治療として受けることはできません。臨床試験が開始された場合は、限定的な条件を満たす患者さまのみが参加できることになります。
臨床試験に関する情報は、今後九州大学や関連する医療機関から発表される予定ですが、現段階では詳細は決定されていません。
マックトリガーの治療費用はどのくらいになる見込みですか?
マックトリガーが実用化された場合の治療費用については、現段階では全く不明です。細胞医薬の製造コストや保険適用の有無によって大きく左右されるためです。
参考として、現在承認されている細胞療法のCAR-T細胞療法は非常に高額(数千万円レベル)ですが、マックトリガーはより簡単な製造工程で済む可能性があるため、コストは異なる可能性があります。しかし、具体的な費用については実用化が近づいた段階で明らかになるでしょう。
現在がん治療中ですが、マックトリガーを待つべきですか?
現在がん治療が必要な状況の患者さまは、マックトリガーの実用化を待つべきではありません。がんは進行する病気であり、治療の遅れが予後に大きく影響する可能性があるためです。
まずは現在の標準治療(手術、化学療法、放射線治療、承認済みの免疫療法など)を担当医と相談して進めることが最も重要です。同時に、現在受けられる免疫療法の選択肢、例えば6種複合免疫療法などについても情報収集し、担当医と相談することをお勧めします。
将来的にマックトリガーが実用化された場合は、その時点で追加の治療選択肢として検討することができるでしょう。
まとめ

マックトリガーは、従来のがん治療とは根本的に異なるアプローチを取る、極めて有望な技術です。「がん細胞を直接攻撃する」のではなく「体自身の免疫システムにがんを攻撃させる引き金を与える」という新しいコンセプトにより、副作用を大幅に軽減しながら効果的ながん治療を実現できる可能性があります。
九州大学の厳密な動物実験により、その安全性と有効性の基礎的なエビデンスは確立されており、国際学術誌への論文掲載により科学的妥当性も認められています。
しかし、どんなに期待される技術であっても、実用化までには安全性と有効性の厳格な検証が必要であり、実際に患者さまが治療を受けられるようになるまでには、まだ数年以上の時間が必要です。
現在がん治療を必要としている患者さまにとって重要なのは、マックトリガーの実用化を待つのではなく、現在利用可能な治療法の中から最適な選択をすることです。標準治療に加えて、現在実施可能な免疫療法として6種複合免疫療法などの選択肢もあります。
6種複合免疫療法は既に多くの医療機関で実施されており、治療有効率約79%以上という実績データも蓄積されています。マックトリガーの実用化を待つ間にも、現在の治療選択肢として検討する価値があるでしょう。
がん治療は、患者さま一人ひとりの状態やがんの種類によって最適な方法が異なります。6種複合免疫療法に興味をお持ちの方は、まずは下記よりお気軽にご相談ください。
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