がん免疫療法コラム
がんは手術ができない場合もあるの? 転移したがんの治療方法とは?
がんが転移すると手術ができないと聞いて、不安に思っている方もいるのではないでしょうか。手術療法の適応には判断基準が定められており、その条件をクリアできなければ治療は受けられません。特に、がんが広範囲に転移している場合、手術で原発巣を取り除くだけでは十分な治療効果が得られないため、手術不能と判断されることが多いです。
本記事では、手術療法適応の判断基準や、転移したがんの治療法について解説します。
INDEX
がんという病気
がんとは、正常な細胞の遺伝子が損傷を受け、その結果として異常な細胞が増殖し続ける疾患のことです。悪性腫瘍とも呼ばれるこの病状は、体のあらゆる部位に起こる可能性があります。それぞれのがんは、初めに発症した箇所を原発巣と呼びます。
時間が経つと、がん細胞は他の部位へと広がっていくことがあり、これを「転移」と言います。転移はがん治療において重大な問題となり、治療方針を大きく左右する可能性があります。
がんの手術療法とは?
手術療法は、がん治療の基本的な治療法の一つであり、物理的にがんを体から取り除く手段です。がん細胞を含む組織を直接切除し、可能であればがん細胞が広がっている周辺の健常組織も一部切除することで、がん細胞が残存しないようにします。さらに、リンパ節に転移があれば、一緒に切除することが多いです。
基本的に、手術によってがん細胞をすべて取り除くことができれば、がんは完治します。しかし、現実にはそれが難しい場合も多く、すべてのがん細胞を取り除くことができなかった場合、手術後に再発する可能性があります。
そして、手術療法は「局所療法」です。つまり、手術は主にがんが発生した特定の部位を対象とします。そのため、切除することができるのは、原発巣となった部位やそれに近接するリンパ節などです。遠隔転移(がん細胞が血液やリンパを介して体の離れた部位に広がる現象)がある場合、手術だけでは治療が不十分となることがあります。
そのため、手術療法は一部の病状に対して有効な治療法であり、がんの種類、進行度、患者さんの全般的な健康状態などにより適応が決まります。また、多くの場合、手術は他の治療法(薬物療法や放射線療法など)と組み合わせて行われます。
手術療法適応の判断基準
手術療法は、医療全般において重要な役割を果たしますが、その適応は厳しく検討され、手術が妥当と判断された場合にのみ行われます。
具体的には、以下の3つの条件をクリアする必要があります。
- 内科的治療の限界であり、外科的治療(手術)が最も有益であること
- 手術のリスクや危険性に対し、得られる効果の方が大きい
- 手術によって患者さんの生命予後が改善する可能性が高い
これらの条件をクリアできない場合は、「手術不能」と判断されます。判断は、患者さんの年齢、病歴、既往症などの総合的な情報をもとに、医師によって慎重に行われます。
がんは手術療法が適応されないことがある
がんは、その種類や進行状況など、個々で大きく異なるため、全ての患者さんに対して同じ治療法が適用できるわけではありません。特に、がんの進行状況やその他の健康状態によっては、上記の3つの条件をすべてクリアすることが難しく、「手術不能」と判断される可能性があります。
例えば、がんが重度に進行していたり、他の臓器へ広範に転移していたりする場合、手術によるがん細胞の全摘出が困難となります。また、高齢であったり、他の重篤な病気を抱えていたりする場合、手術のリスクが高まり、手術が患者さんの生命予後を改善する可能性が低くなることもあります。
がんの手術ができない場合がある理由
がんが広範囲に転移していたり、播種になっていたりする場合は、基本的にがんの手術はできません。その理由について詳しく解説します。
広範囲に転移している
手術療法は局所療法であるため、がんが全身に転移している場合、手術を行っても治癒や改善が望めないことが一般的です。特に、手術前の検査で広範囲に転移していることが明らかとなった場合、医師の多くは手術不能と判断します。
また、手術中に初めて広範囲の転移が発見されることもあります。手術を続行しても全体の治療効果が限定的であると判断されると、そのまま何もせず縫合して手術を終えるケースもあります。これは患者さんの身体に無駄な負担をかけず、別の治療方針へと転換するための措置です。
腹膜播種や胸膜播種となっている
「播種」とは、がん細胞が体内のあちこちに植物の種を撒いたように点在することです。これは、がん細胞が血液やリンパ液を通じて体の他の部位に移動し、新たながんを形成する過程を示しています。
例えば、腹膜や胸膜などに播種が見つかった場合、物理的には手術によって切除可能な見込みがあるかもしれません。しかし、播種があるということはがん細胞が体内に広範囲に散布している可能性が高く、そのため再発のリスクが非常に高いと言えます。このような状況では、医師は治療効果とリスクを慎重に比較した上で、手術不能と判断することが一般的です。
手術ができない場合のがんの治療方法
「手術不能」と判断された場合でも、それは治療が不可能という意味ではありません。がん治療は、一つの方法に依存するものではなく、患者さんの状態やがんの進行度により、適切な方法が選ばれます。手術療法以外にも、「4大療法」の一部として広く用いられている治療法があります。
4大療法とは、手術療法、放射線療法、薬物療法、免疫療法の4つを指します。手術療法は、がんを直接取り除くことを目的とする一方、放射線療法は、放射線を用いてがん細胞を破壊する方法です。薬物療法では、薬剤を用いてがん細胞の増殖を抑え、免疫療法では、体の免疫力を利用してがん細胞を攻撃します。
これらの治療法は、単独で使用されることもあれば、複数を組み合わせて使用されることもあります。それぞれの治療法には特性やメリットがあり、患者さんの状態やがんの種類、進行度などにより最適な治療プランが立案されます。
そのため、「手術不能」となった場合でも、他の治療法を用いることで病状の改善や生活の質(QOL)の向上を目指すことが可能です。
放射線療法
放射線療法は、がん細胞とその周辺部分を対象とした局所療法の一つです。放射線を照射することで、がん細胞のDNAにダメージを与え、これによって細胞の増殖を抑え、最終的には破壊します。特筆すべきは、放射線は細胞分裂が活発な細胞、つまりがん細胞に対して強い効果を発揮する一方で、正常な細胞への影響は比較的小さいという特性があります。
放射線療法には大きく分けて、根治を目指す治療と、がんによる症状を和らげるための緩和治療の二つの目的があります。根治療法はがん細胞を完全に消去することを目指す一方で、緩和治療は痛みや食道狭窄などのがんによる症状を軽減し、患者さんの生活の質(QOL)を向上させることを主な目的とします。
薬物療法
薬物療法は、がん細胞を攻撃したり、その増殖を抑えたりする全身療法の一つです。治療方法としては、口から飲む薬や注射薬、点滴などを用い、体全体に薬物を行き渡らせることで、局所的だけでなく広範囲に分布するがん細胞に対して作用します。
薬物療法にはいくつかの種類が存在し、その種類と効果は患者さんの状態やがんの種類によります。
代表的なものとしては、化学療法(抗がん剤療法)が挙げられます。抗がん剤は細胞の増殖を抑えることで、がんの進行を遅らせます。しかし、副作用が強いため、患者さんの体力やがんの進行度によって適切な投与量や投与期間を医師が判断します。
また、内分泌療法(ホルモン療法)は、ホルモン感受性がん(乳がんや前立腺がんなど)に対して効果的です。内分泌療法は、がんの成長に関与するホルモンの作用を阻害することで、がん細胞の増殖を抑制します。
免疫細胞療法
免疫療法は全身療法の一つで、体の自己免疫力を活用してがん細胞を排除する治療法です。この治療法の最大の特徴は、体自身の防御機能を強化・調整することで、自然にがん細胞と戦う力を増強させる点にあります。
特に免疫細胞療法は、肺がんや肝臓がんの再発リスクを低減させるとの研究結果が報告されており、注目を浴びています。患者さんの免疫細胞を増強・活性化させることで、がん細胞を効果的に攻撃し、再発防止に効果的とされています。
免疫療法は治療自体が体に大きな負担をかけることが少ないため、患者さんの生活の質(QOL)を維持しながら治療を進めることが可能です。そのため、免疫療法は再発予防治療としての可能性が期待されており、研究や臨床応用が積極的に進められています。
まとめ
本記事では、手術療法の判断基準や4大療法について解説しました。手術療法はすべてのがん患者さんが受けられる治療法ではありません。特に、がんが広範囲に転移している場合は、十分な治療効果が得られません。
がんの治療法には局所療法と全身療法に分けられます。手術療法や放射線療法は「局所療法」、薬物療法や免疫療法は「全身療法」です。
がんが広範囲に転移している場合は、薬物療法や免疫療法などの全身療法が有効です。
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